ＢＡＲが店をたたむとき・・・いろいろな理由がある。
経営者に不幸があったり、経営がうまくいかなかったり・・・

　今年開店５０周年を迎えた銀座の『Ｂａｒマリ』が昨日(２００１年９月２８日)をもって閉店した。
私が初めてこの店に足を踏み入れたのは、今年の２月。
あまりの居心地の良さと酒の美味さに、すぐさま厳選ＢＡＲＧｕｉｄｅに載せたのは言うまでもない。

　２度目に足を運んだのは、８月。
若いチーフ・バーテンダーは「今月はモルトセールをやっていてお安く提供していますよ。」
その言葉につられた訳ではないが、モルトを頂く。
昔のボウモア１２年(あの丸みを帯びたボトルの奴)に感激。
このボトルをまだ何本か隠し持っているだけでも驚き。
バーテンダー曰く、「来月１７日で５０周年を迎えるんですよ。」
こりゃあめでたい。来月また顔を出す旨を伝えて(たぶん言ったと思う)店を出た。

　９月に入り、ＨＰ読者の方から『マリ』が９月いっぱいで閉店するとのメールを戴く。
何事か、と思い何とか都合をつけて伺ったのが、９月１７日。開店記念日である。
開店記念の挨拶もそこそこに、「ほんとに閉店するの？」と聞くと、
バーテンダー曰く、「そうなんですよ。」
「８月に来たときは、そんな話無かったよね？」と更に聞く。
バーテンダー曰く、「ええ、あのときは私も知りませんでした。何せ急だったもので。」
・・・閉店は本当なんだ。信じたくなかったが事実のようだ。
ママにも聞いてみると、
「先代から５０年。長いことやってきたし、もうそろそろゆっくりしてもいいんじゃないか。」みたいな事を言っていたような気がする。
（ちゃんと話を聞けるような精神状態じゃなかったような気がする。）
この日から閉店記念セールの言葉につられ、結構飲んだ。
そのどれもが素晴らしい酒だった。
帰り際ママに「是非また来てくださいね。」と言われ、何とかしなくてはと思い店を後にした。

　何とか都合が付いたのは、昨日９月２８日。閉店日である。
仕事の都合で店に着いたのは、６時半。（本当はもっと早く行きたかった。）
階段を上りドアを開けるとすでに満席。
ママがいつもの笑顔で「いらっしゃいませ。」と言ってから、店内を見回し、
「立ち席みたいになっちゃうけどいい？」と聞いてきた。
一瞬、出直そうかと考えたが、時間をつぶしても入れる保証は無いし、日を改めるにも、今日しかない。
こちらとしては何が何でも潜り込みたかったので、二つ返事で入れてもらう。
　カウンターの隅っこに補助の椅子があったのでとりあえず座る。
およそＢＡＲにいる雰囲気じゃない。
強いて言えば、ゲレ食でトレイをもって空席を待ち、食べてる客の背後に立っているときの感じ。
　しばらくしてカウンターが空き、落ち着いて飲む。
と言ってもカウンターの中は忙しいの一語。
とてもバーテンダーとゆっくり話せるような状況ではない。
客層は、スゴイの一語。どう見ても古くからの常連さんのようだ。
私は今日ここにいてもいいんだろうかと自問自答しつつ、
この姿を目に焼き付け、話を聞き逃すまいと、目はらんらんと、耳はダンボ状態。
やがて食事に出かける客が増え、店内も落ち着いてきた。
ゆっくりとモルトばかり４杯飲む。
　昔の「ボウモア１２年」
　ケイデンヘッドの「グレン・ファークラス１９６６」
　Ｇ＆Ｍの「ザ・グレン・リベット１９６１」
　ＢＢＲの「ロングモーン１９７１」(１９６１だったかな？今となっては確かめる術の無いのが惜しい。)
どれもが美味かった。
　さて会計を済まし、店を出ようとすると、
ママが挨拶に見えた。
「どうもありがとうございます。」
「こちらこそどうもありがとうございます。」
「記念にコースターを貰ってもいい？」と聞くと
「どうぞどうぞ、好きなだけ持っていってください。」と言って、奥から更に出してくる。
まだ数百枚はあるだろう。
「こうなるとは思っていなかったから。」とママ。
えっ、と思ったが、１０枚頂戴する。
　ママは階段下まで見送りに来てくれる。
何度もお礼をしてくれるママに返す言葉がなかなか出ず、
「本当にありがとうございました。お体に気をつけてゆっくりして下さい。」と言うのがやっとだった。
結局、閉店の本当の理由は解らずじまいだった。
蛇足ながら、ママはすべての客に対し階下まで見送るのが常であった。
きっと、いつものように最後の客までこのスタイルを繰り返すのだろうな、と思いつつ店を後にした。

　銀座の名店が消えた。
この日、巨人軍長嶋監督勇退の号外が出ていたが、それ以上に残念でならなかった『マリ』の閉店であった。

　なお、チーフ・バーテンダーは、１０月１日より、
実家である北区十条のＢＡＲ『Ａｌｂｉｏｎ’ｓ　Ｂａｒ』のカウンターに立つそうである。
また、彼からメールを戴きロングモーンは１９７１である事が判明した。